2016年連続講座「朝鮮女性の歴史を辿って」 第3回


在日本朝鮮人人権協会 性差別撤廃部会2016年連続講座「朝鮮女性の歴史を辿って」 

第3回  「濁酒闘争と在日朝鮮女性の軌跡」

 

▼案内

「解放」から在日朝鮮人はどのように生き、そのなかで女性たちはどのように存在したのか。敗戦後まもなく日本の犯罪の多くは朝鮮人が犯しているかのように喧伝され、警察による強制捜査が相次ぎました。朝鮮人の多くが職を失い、生活の目途がたたないなかで在日朝鮮女性たちは故郷から受け継いだ自力で食べていく術と知恵を発揮しました。今回はとりわけ濁酒に焦点を当て、1940~50年代にかけて女性や子どもも主体となって行われた「濁酒闘争」の軌跡をたどってみたいと思います。

植民地支配が終わってもなお日本政府がいかに朝鮮人を取り締まりの対象として生活と居住を揺るがし、在日朝鮮民衆はいかに切迫して抵抗にいたったのか。今にいたる在日朝鮮人の歴史的背景と女性たちの自発的な闘いの断片をこれからの糧として共に思いを馳せることができればと思っています。ぜひ多くの参加お申し込みをお待ちしています!!

 

◆日時 2016年9月20日(火)18:30~(20:30頃終了予定)

◆講師 李杏理さん(在日朝鮮人史・帝国再編史研究)~(一橋大学大学院博士後期課程在籍。論文に「「解放」直後における在日朝鮮人に対する濁酒取締り行政について」『朝鮮史研究会論文集』第51集、2013年、「濁酒と解放――内部から腐る平和を問う」『人権と生活』41号、2015年など)

 

▼内容の振り返り

当日の参加者は講師含め26名。参加者をジェンダー別でみると、女性17名(65%)、男性9名(35%)、年代別でみると10~30代23名(88%)、40~50代3名(12%)でした。

李杏理さんはまず、これまでの在日朝鮮人(運動)史や日本女性史、マイノリティ研究における在日朝鮮人女性の語られ方(あるいは不在)の問題点について指摘された後、植民地期の在日朝鮮女性について、不就学と非識字、就業状況と生業、日本の警察による指導・監視の対象化、企業「慰安婦」の側面から考察され、在日朝鮮女性は故郷での生活基盤、言葉、家族を奪われた上に、教育も職も得られず、生きる方途がわずかしかなかったこと、誰もが女工や「慰安婦」になり得る、生死の境に等しい下層を生きたことを指摘されました。

続いて濁酒闘争について、その文化的な意義、「解放」後の在日朝鮮人の生活状況を当時の統計調査や証言を基に考察され、日本の政治家や官憲によって朝鮮人が「闇の根源」であるかのような言説が流布され、川崎事件(1947年)に代表されるように朝鮮人集住地が集中的に官憲により取り締まられたこと、当時の朝連活動家も濁酒づくりを「正しくない」行いであるとしていたこと、そのような中で在日朝鮮女性たちは帝国権力にも民族団体の公式言辞にも同調せず濁酒を作り続け、権力に直接はたらきかけていたことを紹介されました。

また、当時の在日朝鮮人の運動家やエリートらが、民衆たちの「明日をもはかり知れぬ」状況をふまえ、その状況をどう打開するのか、濁酒づくりと闘争をやめない大衆から突き動かされて格闘した痕跡について紹介され、マサカリを持ってカメや樽を叩き壊しながら直接官憲らと対峙した在日朝鮮女性たちの闘争を紹介されながら、とりわけ教育を受けられなかった女性たちにとって合理的・合法的かどうかよりも、生活の現実が先にあり、彼女たち自身の経験に照らして濁酒づくり(密造)は妥当だったと話されました。

そして現在も続く植民地出身女性への抑圧や警察による暴力について、石原慎太郎元東京都知事の「三国人」発言や経済法・特別法違反を名目にした強制捜査、在日朝鮮女性の非正規雇用率の高さを指摘され、歴史にされにくい闘いや犯罪者表象、警察による暴力などの点で在日朝鮮女性と在米アフリカ女性の間に共通点が見られることを指摘されました。

最後に、次のように話されて講義を締めくくられました。
「民族/人種を消去した中立な歴史などありえないように、性差を消去した無色透明で中立な朝鮮人の歴史などありえない。また、全在日朝鮮人がいかなる経済状況におかれているのか、綜合的調査をふまえた構造的差別の究明が求められる。過酷な状況におかれた人びとの経験をいかに反映し、歴史を再考・更新しつづけるのか。疎外された人びとの経験を中心に据えない限り、すべての朝鮮人が解放されることはない。
在日朝鮮女性として生きるとは、このような経験をたぐりよせ、疎外された人びとから学び、在日朝鮮人の生活や未来について枠外の声を反映させることだと考える。」(レジュメより)

お話の後は、在日朝鮮女性リーダー層の濁酒闘争への関わり、日本人女性に対する取締り、在日朝鮮女性と黒人女性の差異、濁酒闘争をした在日朝鮮女性たちが強制送還されたケースなどについて、質疑応答がなされました。

 

□■ 参加者の感想 ――――――――――*

◯講義内容の中で、在日朝鮮人女性は故郷、生活基盤、言葉、家族、そして教育を受けられず職も得られない、生きる方途がわずかしかなかった。「誰も」が女工や慰安婦になり得るそんな境にいたと聞いて、自分自身もその「誰も」の中にいるのではないかと思いました。本当の意味での解放、自由がもたらされていない今、在日朝鮮人女性として、在日朝鮮人女性の奪われた人権、尊厳を取り返したいと思いました。

◯歴史を見る視点を改めて考えさせられました。また在日朝鮮人運動が目指す“解放の形”についても深く考えさせられるお話でした。そしてこのような視点での活動が在日朝鮮人運動の可能性や意義を人類史的境地で更新するものになると思いました。

非合法を選ぶしかなかった在日朝鮮人女性の生きづらさを想像する上で本当に大切な話を聞けたと思います。さらに当時の民衆から突き動かされる運動とありましたが、現在の運動(特に民族団体において)での課題なども考えるきっかけとなりました。

◯三回、今年の連続講座が続いてきて、本当に在日朝鮮人女性の軌跡が少しずつ浮き彫りになっているようで、なぜか鳥肌、感慨無量です。(歴史が動き出したような、カラーになったような)