▼内容の振り返り
参加者は41名。うち約8割が10~30代の在日朝鮮人で、女性参加者は7割、男性参加者は3割でした。
1.
出演者全員の自己紹介の後、在日本朝鮮人人権協会事務局の金優綺さんが『だれもがいきいきと生きられる社会のために 性差別撤廃部会連続講座の記録&「在日同胞のジェンダー意識に関するアンケート」結果報告書』作成の取り組みと意義について報告しました。報告では、今回の部会本の内容を概観しながら、その意義についてお話しました。
本の第1部である昨年の連続講座記録を通しては、①ジェンダーやセクシュアリティについての基本的な問題について知ることができる、②講演録なので読みやすく気軽に手に取りやすいものとなったので、家庭や学校でのジェンダー教育の参考書として使えるものになった、③20~30代の若い世代がジェンダーの視点から同胞社会をどう見ており、その中でどういう生きづらさを感じているのかということがリアルに伝わってくる、④ほとんど「見えない」存在とされていた在日朝鮮人セクシュアル・マイノリティの存在が可視化された、⑤日本の植民地主義と家父長制、同胞社会との関係性について考えるきっかけを提供できた、という内容をその意義として報告しました。
第2部のアンケート結果報告書を通しては、①ごく一部の回答ではあるものの、在日朝鮮人のジェンダー規範や性差別、性暴力についての意識傾向が分かり、男性回答者と女性回答者の意識傾向の差も明らかになった、②意識傾向だけではなく、在日朝鮮人が実際に受けた性差別や性暴力についての経験が明らかになった、③アンケートを通じても、在日朝鮮人セクシュアル・マイノリティの存在が可視化された、④セクシュアル・マイノリティ、DV、セクハラ、性別役割分業などについて学ぶこともできる内容となった、⑤同胞社会でジェンダー平等がまったく達成されていないと認識されている現実や、同胞社会における性差別克服のためには啓発・教育、「組織のトップや意思決定機関の女性をもっと登用する、女男比率をフェアにする」ことが最も求められていることが明らかになった、という内容をその意義として報告しました。
2.
次に、本部会で今年の4月23日に行った「日本軍性奴隷制の否定を許さない4.23アクション~裵奉奇ハルモニを記憶して~」のダイジェスト映像を一緒に観ました。映像は以下のリンク先(Youtube)からご覧になれます。タイトル通り、日本軍性奴隷制の否定をぜったいに許さないという参加者たちの思いが強く伝わってくるのではないかと思います。ぜひ、ご覧いただければ幸いです。
2015.4.23日本軍性奴隷制の否定を許さない4.23アクション~裵奉奇ハルモニを記憶して~ 일본군성노예제 부정을 용서치 않는 4.23액션-배봉기할머니를 기억하고- https://www.youtube.com/watch?v=GcL1knZDzhY
映像の後、アクションについての報告を、諸事情で参加が叶わなかった李イスルさんの代わりに李杏理さんが行ってくれました。アクションそのものについては既に報告をしているので割愛させていただきますが、李イスルさんの思いを以下、ご紹介したいと思います(『人権と生活』40号にも李イスルさんの心のこもったエッセイが掲載されています。ぜひお読みください)。
「アクションを終えてみてまず思うことは、私たち若い世代が歴史を学び伝えることが、今いかに重要であるかということです。私自身昨年の夏に一世だったハルモニを亡くしたのですが、植民地期を生きた人々がどんどんいなくなる中、歴史歪曲が加速化していくのは火を見るよりも明らかです。そういった状況の中、私たちが歴史の証人たちから証言を引き継ぐことでそれに抵抗しなければ、ハルモニたちの痛みも訴えも、すべてないものにされてしまいます。断じてそんなことになってはいけないと思います。
また、先ほども紹介したアクションの中の証言朗読は、南北朝鮮と在日の中からそれぞれ2名のハルモニたちを取り上げて行われましたが、特に共和国のハルモニたちの証言を読みあげたことに意義を感じます。一つには、日本と朝鮮半島の歴史を語るときやほかの様々な局面でいつも「ないもの」のように扱われる共和国の方の声を取り上げられたということと、次に、南北在日を問わずハルモニたちの間には連帯があったことを再認識出来たと同時に、「分断」の中で彼女たちの存在が切り離されてしまったことを改めて考えさせられたという点です。裵奉奇ハルモニの例で言うならば、朝鮮女性として初めて被害を告発したにも関わらず、それが総連の機関誌である『朝鮮新報』の紙面だったことでほとんど取り上げられないままであったという事実に、朝鮮半島の「分断」状況の異常さを改めて思い知りました。
最後に、このアクションを主導した性差別撤廃部会の持つ意義の大きさを改めて感じることが出来ました。性差別撤廃部会は人権協会の中で唯一、何の専門家でもない、「普通」の在日朝鮮人女性が中心となっている場です。「人権」「歴史問題」というと、なんだかおおげさな感じがして、それは自分がやることじゃない、自分にできることじゃないと思っている人が多いような気がしますが、そんな中「普通」の在日朝鮮人女性たちが、日本人女性のフェミニズムや男性中心の運動に乗っかることなく、自分たちの生きづらさが何ゆえなのかを学び、その中からこのようなアクションを企画し、やり遂げることが出来たことの意義は本当に大きいと思っています。
今後もこの部会が「在日朝鮮人フェミニズム」を目指す場として、誰もがいきいきと活動出来る場であれるよう努めていきたいと思います。また、アクションがあったからこの問題について関心を持つのではなく、常にハルモニたちに心を寄り添わせながら、日本軍性奴隷制の被害者たちの尊厳が一刻も早く回復されるよう、これからも声をあげ続けたいと思います。今ここにいらっしゃるみなさんの参加を心から呼びかけながら、以上で報告を終わりたいと思います。コマッスンミダ!」
3.
続いて、金真美さん(朝鮮大学校教員)が「民族教育の現場における性差別撤廃の取り組み」と題して、自身が授業やゼミでどのような取り組みを学生たちと共に行っているかについて報告してくれました。
金真美さんは授業やゼミを通して朝鮮古典文学を民族・階級・ジェンダー的要因で分析していく作業を行っており、その中で学生たちも多様なテーマ(朝鮮戦争をテーマにした小説に現れた女性像、2000年代共和国短編小説に現れた女性像の研究など)をもって研究するようになったそうです。たとえば共和国の最近の小説を読むと、女性が単身赴任をし、男性が家庭を守っている姿が頻繁に描かれているそうです。
また、2012年に朝大生たちが学内学生250名を対象にしたアンケート調査の中で、たとえば「付き合う相手が自分以外の男性と遊ぶことが許せない?」という問いに対して男子学生の30%がYESと答えたこと、「彼氏が望むなら何でも受け入れる?」という問いに対して女子学生の14%がYESと答えたことなどを取り上げながら、デートDVの要素を含んでいることが分かったことなどを報告してくれました。
さらに、「同性を好きになるのは一時的な憧れに過ぎない?」という問いに対しては女子学生の44%、男子学生の42%がYESと答えたそうです。ここから、セクシュアル・マイノリティの存在が見過ごされている傾向が指摘されました。
金真美さんはまた、学生たちと共に、朝鮮近代史を生きた女性たちを知るための学習会を行う中で、学生たちが(男子学生も含め)、自身の中にあるジェンダーバイアスの克服や、女性という性役割を内面化している女性たちどのように運動の主体となることができるかについて考えるようになったことを報告してくれました。
そして、大学教育において最も大切なことは、何があっても変わることのない価値を求めることであり、その価値とは生きる目的や力をつくること。女子学生も、結婚しても変わらない価値や社会の中で、主体的な意志や判断力や責任感を持ち、確かな役割を果たす人間になってもらいたいというメッセージを常に学生たちに送っていると話されました。
最後に、男子学生の論文発表の場で、50代の男性教師から「なぜあえて女性像を研究するのか」と聞かれたのに対して「自分が生きてきた過程で、知らないうちに加害者になっていたかもしれないからです」と答えたこと、しかしそれに対してその男性教員は「君はそんな子ではないよ。最近ジェンダーやら何やら流行ってるからでしょ」と軽く言いのけたエピソードについて紹介しながら、そのような反応を受け続けて無力化されるかもしれない学生を思うと本当に心苦しく、周りの同胞社会でジェンダーという言葉が軽蔑を含む言い方で揶揄されていること自体が、性差別を無視し、性差別に加担することになっていると思わざるを得ないと話され、だからこそ、そのような現状を切り開いていこうとするたたかいが孤独なものではないと感じられる性差別撤廃部会の場にとても意義を感じる、と話してくれました。
4.
最後に、部会責任者の李全美さんが行う質問に答える形で、朝鮮学校保護者の申嘉美さんがお話くださいました。
申さんは、自らが日本学校に通いながら周りから「下に見られていること」は分かったし、引け目を感じながらもそれを受け入れている自分がいたこと、そのような中で子どもを日本学校とウリハッキョのどちらに通わせるのかをパートナーととことん話し合って、ウリハッキョ見学後に子ども自身の感想も聞いてウリハッキョに送ることを決意したことを話してくださいました。
また、学費の高い朝鮮学校に子どもが通い続けられるよう、夫と協力しながら仕事を掛け持ちし、その中でも子どもが絶対に一人で食事をすることのないよう、一つ目の仕事を終えて15時頃に家に戻ってきて食事を支度し子どもと共に食べ、その後、夜に二つ目の仕事をしていることを話してくださいました。
日本政府の朝鮮学校「無償化」排除については、文科省前での「金曜行動」が、子どもたちの凛々しい姿を見てもっと自分たちががんばっていかなければ、と思わされる場であること、また、金曜行動でとあるオモニが発言をする際に「怖い」と言って震えた姿を見て、在日朝鮮人として発言したら何をされるか分からない、という現実を感じた、と話してくださいました。
最後に、朝鮮学校の保護者を体験しながら、たとえば「子どもが何世か」を数えるときになぜかその基準がアボジやハラボジなど男性であること、「学父兄」という言葉を初めて聞いたときはアボジたちについての話かと思ったら、そうではなくオモニたちを指す言葉として使われていることを知って驚いたこと、朝鮮学校での給食をアボジ会が準備しても、いつのまにか給仕や手伝いはオモニ会の役割になってしまっていることへの疑問、朝鮮学校支援の一環で日本の方々と朝鮮学校見学に行くと、昼食をオモニ会が用意して当たり前になってしまっていて、それなのに懇談会などで発言するのは男性たちで、そこにオモニたちはいないことがあること、「オモニたち、コマプスムニダ」という言葉でそうした問題を帳消しにしてしまっている雰囲気を感じるし、それでいいのだろうか、と思う、とお話してくださいました。
5.
質疑応答の時間には、在日朝鮮人社会における結婚規範と在日朝鮮人社会を守っていく必要性との問題をどう考えるか、朝鮮大学校学生たちのジェンダー視点からの文学研究の具体的な内容、同胞社会における結婚への規範が同胞同士のイベントに参加しにくい状況をつくっているということの意味などについて質問がありました。
◆:。◇◆:。◇ 参 加 者 か ら の 声 ◇。:◆(当日感想文より抜粋)
☆もともと在日社会に対してジェンダーの理解や差別があると思い距離を置いていました。それでは問題解決にならないと思い、最近朝青などに顔を出して活動していくなかで、もっと知らなくてはいけないと感じた中で先輩に紹介してもらい、参加させていただきました。これからの自分の活動の糧にし、広げていけたらと思いました。
☆この部会の活動がとても意義のあるものだと思いました。今まで私自身がウリハッキョで学びながら民族として抑圧された人の視点にたって考えるということを学んできましたが、ジェンダー・セクシュアリティにまつわる問題を考える際に、「被害者」側に立って考えるという意識が欠けていたのではないのか、ということです。植民地主義やそれによる分断体制を克服することを目指す在日朝鮮人運動であるからこそ、ジェンダーについても真摯に取り組む実践がとても重要であると思いました。
☆朝鮮学校に通い、当たり前だと思ってきたことたちが、決してそうでなくて、無意識の行動や言葉が、いろんな人を傷つけてしまってたのではないか、とても心配になりました。こういう講座にはこれからも参加したいです。
☆最後の質問で結婚に関する話が出ました。在日の問題と「一人単位で考える」が繋がりました。在日の人数の減少を考えて、同胞の結婚が語られますが、同胞以外と結婚した方が「いづらい」と感じてしまうことは、逆に大切な同胞を逃していることだと思いました。
☆「同胞結婚」や結婚そのものの問題も、観念の問題や、日本の労働状況の説明だけではなく、一世の社会保障、生存権の問題や、「国際結婚」の場合の女性の状況や子どもの生育環境のレベルでも考えていきたいと思います。
☆申さんの在日社会において「オモニ」という役割の中での「気づき」が印象深かったです。自分が生きてきた中でそういうオモニの役割について、あまり違和感を感じたことがなかったから。
☆今日は、大変よかったです。特に、「在日朝鮮人フェミニズム」という言葉、胸が熱くなりました。
☆友だちや朝大生、日大生、もっとたくさんの方々がこの講義を受けられればいいなと思いました。
☆自分が育った朝鮮学校という環境、そして家庭、日常社会で自分が性差別を受け、あるいは無意識のうちに他人に対して行っていたことが少なからずあると思っていて、その点につき、しっかり問題意識を持とうと思っていたところ示唆に富んだ話を多く聞けた。
☆4.23アクションの報告の中で出てきた「他者の運動に乗っかる形ではなく部会の力で行動を起こせたことに意義がある」という視点にはっとさせられました。人権協会の部会の中で研究、運動を続けていくことは本当に重要で意義のあることだと感じます。
■□ 関 連 記 事 ━━━━━━━━━━━━━━━━━
[朝鮮新報]
性差別撤廃に向けた経験交流会開催/「語りあおう!分け合おう!私たちの経験!」
http://chosonsinbo.com/jp/2015/06/sk818-2/
[日刊イオ]
だれもがいきいきと生きられる社会のために
http://blog.goo.ne.jp/gekkan-io/e/ac98cb4a615364ba2f9f1d081cc27735
[ソウルヨガ](イダヒロユキさんのブログ)
若いフェミの活動記録:『だれもがいきいきと生きられる社会のために』
http://hiroponkun.hatenablog.com/entry/2015/06/16/001612