“デートDVについて考えてみよう”/社会が生み出すジェンダー問題
「そのLINEだれから?」
「LINEには5分以内に返信してよ」
「俺を最優先に考えて」
「なんで?」
「俺の話に口答えするな」
「俺が嫌だと言ってるのに、そんな格好するな」
初の取り組み
一見、何でもない「ただの言い合い」にも捉えられてしまう「男女」の会話に、果たしてどれほどの人が違和感を感じるのか―。
2月21日、東京朝高・高3の生徒を対象に行われた在日本朝鮮人人権協会・性差別撤廃部会(以下、部会)による出張授業「デートDVについて考えてみよう」。
先に紹介した「男女」のやりとりは、実際に付き合っている男女2人に扮し、高3の生徒たちが行ったロールプレイ(ある特定の立場の人になったつもりで、ある問題について考えそれを表現する参加型学習)の一幕だ。
「今の実演を見ながら、自分にあてはまると思うことはないですか」
そう講師が質問を投げかけると、キョトンとした表情で黒板を見つめる生徒や、周囲の様子をうかがいざわつく生徒、真剣な面持ちで授業を聞く生徒など、その反応はさまざまだった。
今回、同校でデートDV防止教育が行われるのは初の取り組み。初回となったこの日は、第一段階として交際相手との間で起こるデートDVの基礎知識について授業が行われた。
中でも、生徒たちがひときわ集中していたのは「暴力の背景に、男らしさや女らしさといった誤った常識がある」と講師が話したときだった。
「男は強引なほうがかっこいい?」「泣かない男がかっこいい?」「口答えせず男の話をだまってきくのが女らしい?」「束縛されるのは愛されている証拠なの?」
そんな問いについて講師が出した答えは「”男らしく”や”女らしく”ではなく、”私らしく”が重要。対等な関係を築くために、自分と相手との心の境界線を意識しよう」というもの。
生徒たちは、自らメモをとったり、横に座った同級生へ「私らしくだよ!」と呼びかけたりと、聞き慣れない内容を前に、皆自分なりに考えを巡らせていた。
今後のケアは?
授業後に行われたアンケートには、「デートDV」というテーマについての率直な思いが次々と寄せられた。
「男らしさや女らしさじゃなくて、自分らしさを持つ。講師の先生が話したこの言葉がいいなと思えた」
「我慢しなくてもいいという言葉に、すごく安心した」
「DVがなくなればいいと思うけど、男女の同等な関係がこの社会でつくられるのはすごく難しいと思う。だからこそ今後もこのような講義を続けてほしい」
「今日の授業を聞いて、家で父親が母親に向かって話す言葉に、これってDVなのかなと思う部分がたくさんあった。身近なところから改善していけたらとおもう」
「自分の周りにいるカップルに、まさにデートDVだなと思うような部分があってハッとさせられた。もし友人に相談されたら、ちゃんと聞いてあげられるように知識を持っておきたいと思った」
さまざまな思いや悩みを抱えた生徒たちへ、今後どのようなケアが必要となってくるのか。
主催した部会メンバーの一人である朴金優綺さんは「どのような反応を示すか不安もあったが、実際にDVで悩んでいる生徒たちの声を聞くことができたことは得難い経験だった」と授業後に感想を語った。
また今後の課題について朴金さんは、「差別される者の痛みを知る在日朝鮮人だからこそ、女性や性的少数者など、他の属性によって差別される人々に思いをいたし、自らの立ち位置を省みることが重要だと思う」としながら「今日をきっかけに、全国各地の朝鮮学校でも人権教育の一環としてデートDVについて学べる機会がどんどん増えていけばと思う。性差別撤廃部会の合言葉『だれもがいきいきと生きられる社会のために』これからも尽力していきたい」と力強く語った。
同学年の学年主任を務める金斗植教員は、「生徒たち一人ひとりにとって、自分を振り返るきっかけになったという意味で、やってよかったと思っている」としながら、今後も環境づくりに努めたいと述べた。
「よりよい同胞社会を築くために」―。今回の出張授業が起点となり、民族教育における新しい人権教育という大切な取り組みがいま始まろうとしている。(韓賢珠)