「慰安婦」ハルモニたちへ馳せる思い/4.23アクションで
“1ミリもぶれてはいけない”
2日間で約400人が足を運び盛況を収めた2018年4.23アクションでは、日本軍性奴隷問題に関するパネルおよび朝鮮学校生徒らによるアート展示、日本軍「慰安婦」問題解決全国行動共同代表・梁澄子さんのトーク、歌とピアノの小公演、劇団トル・きむきがんさんと東京演劇アンサンブル・洪美玉さんによる2人芝居「キャラメル」など盛りだくさんのイベントが行われた。(李鳳仁)
劇団トル・きむきがんさんと東京演劇アンサンブル・洪美玉さんによる2人芝居「キャラメル」。ここに登場するホン・オクスンとキム・スッキは、下町をよく見渡せば今日もどこかで会えそうな、在日1世のハルモニたちだ。
最大で20万人いたとされている日本軍性奴隷制被害女性たち。その中で自らの被害をカミングアウトした女性たちの人数は一握りにすぎない。(南朝鮮政府に登録された被害者で239人。)残りの女性らは、今も自身の痛みを必死に隠し、ひとり苦しみ続けている。脚本を手掛けたきむきがんさんは言う。「被害女性たちの歴史を調べながら、故郷に居れなくなった女性たちが日本や中国に行って暮らしていたという事実を知った。そのとき『1世のハルモニの中にも絶対おったやろ』と思った。名乗り出れず、何も言えず、何とかコミュニティーの中で生きてきた人がいたはずだと」。
無我夢中で生きてきた1世のハルモニたち。社会の荒波の中、当事者であるにも関わらず流れからはじき出されてしまった、顔も声も分からない彼女たちと向き合いたい、寄り添いたい、一在日朝鮮人としてこの舞台に立ちたい―「それじゃないと嘘になるから」と、きむさん、洪さんは立ち上がった。「ハルモニたちが尊厳を取り戻せずに亡くなったのなら、その尊厳を私たちが受け止めて、舞台の上できっちりとあぶり出していこうと思った」。
大阪の今里で、身寄りもなくひっそりと暮らし息を引き取った主人公・オクスン。演劇では、そんな彼女と友人・スッキによって、彼女ら自身の花向けが行われる。そうして、ずっと乗ってみたかった自転車、たくさんの花で飾り付けた自転車「レボリューション」に乗ってオクスンはあの世へ旅立っていく…。女、在日、世代…あらゆる立場を超えた「痛みを持つ一人の人間」の叫びは、時には笑いで、時には涙で参加者たちの心の扉を叩いた。
「…だって私はオクスンなんだよ。痛めつけられた朝鮮の娘である前に、一人の人間、オクスンなんだよ。このオクスンの身の上に起こった事も、今こうして生きてる事もみんなオクスンなんだ。なのに私は、私を抑え込んでた。だから、自分のために何かをしたいって思った」(劇中、洪美玉さんの台詞から。)
きむさんは「どこか可愛らしいハルモニたちを見ながら、彼女たちの痛みを、皆さんが受け入れたくなったらいいな。彼女たちの叫びが、自分自身の叫びなんだと気付いてほしい」と話す。
悲しみ、怒り、痛み…それは生きていたら誰でも感じる普遍的なものだ。しかし「慰安婦」被害を受けたハルモニたちは幾重にも苦しみを強いられ、その尊厳を奪われてきた。
「キャラメルあげるからこっちへおいで」。植民地統治の下、何もかも奪われ、お腹をぺこぺこに空かした少女の純粋な気持ちを、泥まみれの軍靴で踏みにじった日本。それだけではない。解放を迎えた後の社会は長い間、ハルモニたちの痛みを受け入れることはなかった。今、問われている。そんなハルモニたちの「尊厳の回復」とは―。
先にトーク「日本軍性奴隷問題の現在~宋神道さん支援運動の中で見えてきたもの~」を行った梁澄子さんは述べた。「宋さんと過ごす過程での気づきは、結局、普通の人が絶対に経験しないような痛みを、普通の人が理解しきることはできないということだった。それでも理解していきたいと思ったとき、やっとスタート地点に立った気がした」。
どこかで分かったような気になってはいないだろうか? 2日間に及んだ4.23アクションで行われたすべてのイベントは、この合言葉で一貫されていたと言える。ハルモニたちの思いから「1ミリもぶれてはいけない」。そして教えてくれた。まず始めるべきことは「ハルモニたちの痛みを、自身の痛みとして受け入れること」だと。
参加者たちの声
高麗博物館でチラシを手に取り足を運んだという大石忠雄さん(78)は「歴史清算のプロセスは、犯した出来事を事実として受け止めることから、相手の人たちが納得するまでだ」としながら「体の痛みはつねられてはじめてわかる。被害に会われた女性たちのつらい痛みを分かるには、想像力をうんと働かせても全く足りない。だからこそ謙虚に学び続け、その痛みを受け止めていくことが大切だと思う。心の傷は周りの人と共に分かち合うことでしか癒せない。手をつなぎ、思いやりの気持ちを持ってこの問題と向き合っていく必要がある」と話した。
金功熙さん(23)は演劇を見て「面白い場面がたくさんあったが、一つ一つの表現の中にさまざまなメッセージが詰まっていたと思う」と感想を述べた。そして「『慰安婦』問題が複雑な問題だからこそ、しっかり向き合っていかなければと思う。ジェンダーの問題としてだけ捉えるでもなく、植民地・戦争責任の問題としてだけとらえるでもなく、この問題がはらんでいるさまざまな側面をたえずすり合わせながら、これからの展望を見つけていかなければならないと思う」とした。
「ハムケ・共に」のメンバーである佐藤みち代さん(51)は「ハムケと出会うまで、恥ずかしながらこのような問題についてもよく知らなかった。まだ入り口に立ったばかりだと思っている。これから自身の問題として学び続け、心を掘り続けていきたい」と話しながら「自身の問題としてとらえるということは、色んな事とリンクしている。そのように学び続けることはもちろん、自分の子どもの問題として、朝鮮高校の無償化問題などにも、解決に向けて積極的に取り組んでいきたい」と心境を語った。